世界観

大学時代、屋台でアルバイトをしていました。
色々な催事やフードフェスに屋台を出して、
食べ物を売るバイトです。
ある時、大阪城公園で開かれる催事に出店することになりました。
なんでもその催事は、「江戸時代へタイムスリップした空間」がテーマ。
そのため、僕たち店員も、全員が「江戸時代の商人」という設定。
言葉遣いもそれっぽい感じで接客してくださいという、特殊な催事でした。
屋台の中の、お客さんには見えない位置に
「世界観」
と書かれた紙が貼ってあったのをよく覚えています。
ややスピリチュアル。
ただ僕はと言うと結構楽しんでおり、
「温かい汁物はいかがでござるかー!?」とか言いながら、
割とノリノリで接客していました。
(今思うと、「ござる」で合ってるのか?)
ある日出勤すると、初めて見る30歳くらいの男性に、
「あ…どうも…」と声をかけられました。
当時の僕からするとかなり年上の大人でしたが、
その蚊の鳴くような声と物静かな雰囲気に、ちょっと拍子抜けしてしまいました。
彼はOさんというフリーターの方。
急遽休みになったメンバーの代打として、
色々なツテを辿って声がかかったとのことでした。
まぁ、こういうイレギュラーは単発バイトではしばしばあること。
僕は基本的な調理や会計などを伝えた後、
今回一番のキモになる「世界観」について説明しました。
僕「…というわけで、江戸時代の商人として接客していただきたいんです。」
Oさん「なるほど…わかりました…。」
相変わらず控えめな返事をするOさん。
大丈夫なのだろうか…。
世界観以前に、そもそも声が小さいし…。
接客自体、ちゃんとできるのかな…。
色々な不安が頭をよぎりながらも、催事がスタート。
始まったからには、Oさんと2人でやるしかありません。
僕「じゃあOさん、呼び込みしていきま…」
そう言い終える間も無く、Oさんが声を張り上げました。
Oさん「てやんでぇ!!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!」
!?
Oさん「うちの店は天下の台所や、各地から仕入れた一級品が勢ぞろいよぉ!!」
お、Oさん!?
Oさん「さぁさ、今ならお代も安くしとくぜぇ!!」
Oさん、覚醒────────
僕の隣にいたのは、完全なる江戸っ子商人でした。
その後も女性のお客さんを見るや否や、
「お嬢さん、もしやくノ一じゃねぇだろうなぁ!?」と声をかけたり…(どういう絡み方?)
しまいには、会計で1000円札を手渡したお客さんに対して、
「お前さん、この紙っきれはなんだい?会計は10文だよぅ!」とか言い出す始末。
(毎回それされたらレジが回らん!)
営業終了後に知ったことなのですが、
Oさんは役者を目指してフリーターをされていたそうです。納得。
自分の世界観は甘かった…。
Oさんとはそれきりですが、あの日学ばせていただいたことは大きいです。
Oさん、どこかで役者として活躍されているのでしょうか…。
時代劇でそれらしい方を見かけたら、ぜひご一報を。