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マサト君の話

 

遠い遠い昔、私が20歳位の頃のことです。

当時、東京で大学生をしていた私は、池袋のカフェレストランでバイトをしていました。

 

当時の池袋は、結構混沌とした街で、

関西で言うと、京橋と尼崎を足した感じのような雰囲気でした。※あくまで個人の感想です。

 

そのカフェは100席以上ある大きな店で、様々なカテゴリーのお客様がおりました。

大学生、サラリーマン、OL、そして明らかにその筋だとわかる方など・・・

 

たまに、コーヒーの出前の依頼もあり、その多くは、近くの雀荘でした。

その雀荘は、サラリーマン風の方はほぼおらず、かなり怖そうな方ばかりだったので、

出前の依頼が来ると、じゃんけんで負けたヤツが、罰ゲームとしてコーヒーを持っていっていました。

 

そのバイト先で、同い年のマサト君と知り合いました。

私はホール担当、マサト君はキッチン担当です。

 

所謂フリーターだった彼は、田舎から東京に出てきて、調理師免許の取得を目指していました。

外見は、リーゼント。

少し前に流行ったドラマ『今日から俺は‼』に出てきそうな雰囲気です。

完全なヤンキーですね。

 

マサト君は、見た目は怖いけど、とても気がいいヤツで、すぐに仲良くなりました。

バイト先の近くに住んでいたので、よく泊まりに行ったり。

 

ある日のバイト中、マサト君が「なあ、今日ウチに泊まりに来いよ」というので、

二つ返事で「いいよ」と言い、いつものように彼のアパートに泊まりに行きました。

 

いつものように、くだらない話をして、そろそろ寝る準備をするか、という頃、

マサト君が「実は・・・」と、話しかけてきました。

「どうした?何かあった?」と私。

「うん・・・レイおるやろ?」

 

レイというのは、最近マサト君が付き合い始めた、可愛い女子高校生です。

可愛いのですが、制服のスカートも長く、『今日から俺は‼』に出てくる、

橋本環奈さんが演じた、あんな感じの完全なヤンキー女子高校生です。

 

「レイなぁ・・・これの、これだったんよ」

これのこれ?

 

ん?と思い、マサト君を見返すと、

彼は、頬を指でなぞり、そして、小指を立てました。

 

これのこれ・・・

わかりやすい表現をすると、「その筋の人のカノジョ」というところでしょうか。

 

「・・・そうなんだ・・・」と私。

「そう。それで、相手の人がいろいろ俺にうるさく言ってきてて」

「・・・そうなんだ・・・」

「今日あたり来るかもしれん」

「え?マサトがここに住んでる事ばれてるの?」

「うん。レイが言ってしまったらしい」

「来るかも?」

「うん。来たらごめんな」

 

得てして、イヤな予感は当たるものです。

 

ほどなく、玄関のドアをドンドンドンドン!

「おい!開けろ!」

 

マサト君、仕方なく玄関を開けます。

そこには、若頭風の方が、若手の怖そうな方お二人を従えて立っていました。

 

「おい、マサト!わかってると思うけど、レイは俺の女だ!すぐに手を引け!」

「・・・わかりました」とマサト君。

「もう二度と会うなよ!」

「はい」

「もし、また会ったら、ただじゃすまないからな!」

「わかりました」

 

そうして嵐は去っていきました。

 

あー、無事でよかった、と安堵する私。

その横で落ち込むマサト君。

 

と、突然マサト君が叫びました。

「あー、レイ、可愛かったのに~!」

「いや、もうレイはやめとき」

「・・・それがいいかな?」

「当たり前やろ!」

 

あまり懲りていないマサト君の話でした。

 

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